自分の「苦手なこと」を嫌いにならないセルフコンパッション。短所を認めて心穏やかに過ごすヒント
「苦手な自分」を受け入れることから始める穏やかな日々
仕事や日常生活の中で、「これは苦手だな」と感じる場面は誰にでもあるものです。例えば、人前で話すこと、細かい作業、あるいはスケジュール管理など、さまざまな苦手意識があるかもしれません。
多くの人は、得意なことよりも苦手なことに目が行きがちです。「なぜ自分はこれができないのだろう」「もっとできるようにならなければ」と、自分を責めてしまうこともあるでしょう。特に、周囲の期待を感じたり、他の人と比較してしまったりすると、苦手な自分を認められず、自己否定感を抱いてしまうことも少なくありません。
この記事では、そんな「苦手な自分」を責めるのではなく、セルフコンパッション(自分への思いやり)の考え方を取り入れて、心穏やかに過ごすためのヒントをご紹介します。苦手なこととの向き合い方を変えることで、少しずつ心を軽くしていくことができるはずです。
なぜ私たちは「苦手なこと」で自分を責めてしまうのか
「苦手なこと」があること自体は、決して特別なことではありません。人間にはそれぞれ得意・不得意があります。しかし、私たちは社会生活の中で、「あらゆることをそつなくこなせるのが理想」という無意識の基準を持ってしまいがちです。
そして、その基準から外れる「苦手な自分」を見ると、「自分はダメだ」「努力が足りない」といったネガティブな評価を下してしまいます。このような自己批判は、自己肯定感をさらに低下させ、新しいことへの挑戦をためらわせたり、常に不安を抱えたりすることにつながります。
「苦手なこと」は、単にスキルや能力の問題だけでなく、過去の失敗経験や、周囲からの批判、あるいは「自分は完璧でなければならない」という思い込みなど、様々な要因が複雑に絡み合って生まれる感情でもあります。この自分への厳しい視線を、少しだけ緩めてみることが大切です。
セルフコンパッションで「苦手なこと」に向き合う
セルフコンパッションとは、困難な状況や自分の欠点に直面した時に、友人に対するように自分に優しさや理解を持って接することです。この考え方を「苦手なこと」に向き合う際にどのように活かせるでしょうか。
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「誰にでも苦手なことはある」という共通の人間性に気づく 自分の苦手なことを「自分だけの欠陥」のように感じていませんか。しかし、世の中に完璧な人間はいません。誰もが何かしらの苦手や弱さを持っています。自分の苦手さも、人間として自然な一面なのだと認識することが、孤立感を和らげ、自分を責める気持ちを鎮める第一歩です。これは「自分だけではない」という気づきであり、セルフコンパッションの重要な要素の一つです。
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苦手な自分に優しさや理解を向ける 苦手なことに直面したとき、心の中で自分にどんな言葉をかけていますか。「どうしてできないの」「やっぱり私には無理なんだ」といった批判的な言葉かもしれません。ここで意識的に、自分に優しい言葉をかけてみましょう。「これは確かに苦手なことだね」「頑張っているけれど難しい状況だね」「無理しなくて大丈夫だよ」など、苦労している自分に寄り添う言葉を選んでみてください。まるで大切な友人が同じ状況で困っていたら、どんな言葉をかけるかを想像してみると良いでしょう。
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「苦手なこと」と自分を同一視しない 「私はこれが苦手だ」という事実と、「私はダメな人間だ」という自己評価を結びつけていませんか。「苦手なこと」は、あなたという存在の一部に過ぎません。苦手なことがあるからといって、あなたの価値が損なわれるわけではありません。苦手なことと自分自身を切り離して捉える練習をすることで、苦手さがあなたの全てではないことに気づけます。
苦手な自分と心穏やかに過ごすための実践ヒント
セルフコンパッションの考え方を踏まえて、「苦手な自分」との付き合い方を具体的に変えていくためのヒントをいくつかご紹介します。
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苦手なことへの自分の反応を観察する 苦手なことに取り組むとき、どんな気持ちや体の反応が起きるか、静かに観察してみましょう。心臓がドキドキする、ため息が出る、といった身体感覚や、「嫌だな」「逃げたいな」といった感情に気づくだけでも、自分を客観視するきっかけになります。ノートに書き出す(ジャーナリング)のも有効です。観察することで、感情に飲み込まれず、一歩引いて向き合えるようになります。
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自分にかける言葉を意識的に変える 前述のように、自分への批判的な言葉に気づいたら、意識して優しい言葉や、より現実的な言葉に置き換えてみましょう。「私はこれが全くできない」ではなく、「これは私にとって少し難しいことだ」。「なぜこんな簡単なこともできないの」ではなく、「これは私の苦手な分野だな、少しずつ慣れていこう」のように、自分を追い詰めない表現を選んでいきます。
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小さな「できたこと」や得意なことに目を向ける 苦手なことばかりに意識が向くと、自分の良い点が見えなくなります。意識的に、その日できたこと、得意なこと、あるいは努力した小さな一歩に目を向ける時間を作りましょう。「朝起きられた」「食事をしっかり摂れた」「苦手なことでも少しだけ取り組んでみた」など、どんなに些細なことでも構いません。自分の全体像をバランスよく見ることで、自己肯定感を育むことができます。
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苦手なことでも「完璧」を目指さず、少しだけ試す 苦手なことへの挑戦を完全に避けるのではなく、ほんの小さなステップで試みるのも良いでしょう。「完璧にこなす」ことを目指すのではなく、「少しだけやってみる」「以前よりほんの少しだけ慣れる」といった、ハードルの低い目標設定が有効です。結果にかかわらず、「試してみた自分」をねぎらうことが大切です。
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心と体の繋がりを意識する 苦手なことによるストレスは、知らず知らずのうちに体に力みや緊張を生み出していることがあります。休憩中に軽く肩を回したり、数回深呼吸をしたりと、体の感覚に意識を向ける時間を持ちましょう。体からのサインを受け取ることも、自分への優しさの一つです。心と体は繋がっていますので、体を労わることは心の平安にも繋がります。
苦手な自分も、あなたの一部として大切に
「苦手なこと」がある自分は、決して「ダメな自分」ではありません。それは、あなたの個性や経験の一部です。セルフコンパッションを実践することで、苦手な自分を厳しく裁くのではなく、理解し、労い、受け入れることができるようになります。
完璧を目指す必要はありません。苦手なことがあっても、あなたは十分に価値ある存在です。今日から、少しずつでも良いので、「苦手な自分」に優しく寄り添う練習を始めてみませんか。その一歩が、心穏やかな毎日へと繋がっていくはずです。