本当は「こうしたい」と思ったら。自分の気持ちを大切にするセルフコンパッション
自分の気持ちを後回しにしていませんか?心と体の声に耳を澄ますことの大切さ
日々の忙しさの中で、「本当はこうしたいけれど、今は無理」「周りのことを考えると、自分の気持ちは二の次かな」と感じることはありませんか。仕事や家庭、人間関係において、つい自分の本音を抑え込み、周囲の期待や「こうあるべき」という理想に合わせて行動してしまうことがあるかもしれません。
そうした「自分を後回しにする」習慣は、一見、協調性があり、周りのために頑張っているように見えます。しかし、自分の心や体が発する「こうしたい」「これは辛い」といったサインを無視し続けると、知らず知らずのうちに心身に負担がかかり、疲労感やストレス、漠然とした不調として現れてくることがあります。
心が疲れてしまうと、自分自身の価値を感じにくくなったり、ちょっとしたことで自分を責めてしまったりすることにも繋がりかねません。
この状態から抜け出し、心と体のウェルビーイングを高めるために有効なのが、「セルフコンパッション」の考え方を取り入れることです。セルフコンパッションは、困難な状況にある時や自分の欠点に直面した時に、批判的になるのではなく、自分に優しさと理解をもって接することを指します。
この記事では、セルフコンパッションの視点から、自分の「こうしたい」という本当の気持ちに気づき、それを大切にする方法をご紹介します。自分に優しく向き合い、心の声に耳を澄ます練習を始めることで、きっと日常が少しずつ心地よいものに変わっていくことでしょう。
なぜ自分の気持ちを抑え込んでしまうのか?心と体の繋がりを知る
私たちは、他者との関わりの中で生きています。そのため、周囲との調和を保つことや、他者の期待に応えようとすることは自然なことです。しかし、それが過度になり、自分の気持ちを常に犠牲にするようになると、心は「私は大切にされない存在だ」というメッセージを受け取ってしまいます。
特に、過去に自分の意見を否定された経験があったり、完璧主義の傾向が強かったりする方は、「こうしたい」という気持ちよりも「こうするべき」を優先しがちです。これは、無意識のうちに自分を守るための防衛策だったり、自分にはそれだけの価値がないと感じていたりすることに起因する場合もあります。
自分の気持ちを抑圧し続けることは、心だけでなく体にも影響を及ぼします。例えば、
- 漠然とした体の痛みや凝り
- 疲れが取れにくい、だるさ
- 食欲の変化や胃腸の不調
- 眠りの質の低下
- 気分の落ち込みやイライラしやすさ
これらは、心が「もう無理だよ」「気づいてほしい」と体を通じてSOSを発しているサインかもしれません。心と体は密接に繋がっており、心の状態は体に、体の状態は心に影響を与え合っています。自分の気持ちに気づき、耳を傾けることは、これらの心身の不調を和らげる第一歩となるのです。
セルフコンパッションで自分の本音に優しく寄り添う
セルフコンパッションの考え方を取り入れると、自分の気持ちを抑え込んでしまう自分自身を責める必要はないと気づけます。セルフコンパッションには主に3つの要素があります。
- マインドフルネス: 今、自分がどう感じているか、どんな思考が巡っているか、どんな体の感覚があるかに、評価や判断を加えずに気づくこと。
- 共通の人間性: 辛い経験や困難、失敗は、自分だけでなく誰もが経験する普遍的なものであると理解すること。自分だけが特別なのではないと知ること。
- 自分への優しさ: 困難な状況にある時や、自分の欠点に気づいた時に、友人や大切な人に接するように、自分自身に温かさと理解をもって接すること。
自分の「こうしたい」という気持ちに気づいた時、そしてそれを抑え込もうとしている自分に気づいた時、この3つの要素が役立ちます。
- マインドフルネス: 「あ、今、本当はこうしたいと思っているな」「でも、やっぱり無理だと考えているな」と、自分の内側の声や思考に、ただ気づきます。
- 共通の人間性: 「自分の気持ちを後回しにしてしまうのは、私だけじゃない。多くの人が経験することだ」と、孤独感を和らげます。
- 自分への優しさ: 「本当はこうしたいのにね。よく頑張って周りに合わせようとしているんだね」と、自分の努力や葛藤している心に、温かい言葉をかけたり、労わったりします。
自分の本音に気づいても、すぐにそれを実現できない状況もあるでしょう。それでも、「気づけたこと」そのものを肯定し、抑え込もうとする自分にも優しさを向けることが、セルフコンパッションの第一歩です。
自分の「こうしたい」に気づき、大切にする実践的な方法
自分の「こうしたい」という気持ちに気づき、それを大切にするための、日常生活で手軽にできる実践方法をいくつかご紹介します。
1. 小さな「立ち止まる時間」を持つ
意識的に一日のうちで数回、短い時間(1分程度でも良いでしょう)を設け、「今、本当はどう感じているかな?」「体は何か求めているかな?」と自分に問いかけてみましょう。 * 例えば、仕事の合間に一息つくとき、信号待ちをしているときなど。 * 「疲れたな、少し目を閉じたい」「喉が渇いたな、温かいものが飲みたい」「ちょっと外の空気を吸いたい」など、小さな感覚や欲求に気づく練習です。 * 気づいたことに「良い」「悪い」と判断せず、「あぁ、そう感じているんだな」と受け止めるだけです。
2. 体の感覚に意識を向ける
心と体は繋がっています。体の感覚は、しばしば心の声なき声を表しています。 * 肩や首が凝っている、お腹が張る、手足が冷たいなど、体のどこかに不快な感覚がないか注意を向けてみましょう。 * 「この凝りは、もしかしたら休息を求めているサインかな?」「胃がキリキリするのは、何か我慢していることがあるのかな?」のように、体の感覚から心の状態を推測してみるのも良いでしょう。 * そして、その体のサインに「気づいてあげられたね、ありがとう」と優しさを向けます。
3. 「こうしたい」リストを書き出してみる
漠然とした大きなことではなく、日常生活の中の小さな「こうしたい」を書き出してみましょう。 * 「好きな音楽を聴きながら通勤したい」「お昼休みはスマホを見ずにぼーっとしたい」「帰ったらまずお風呂に入りたい」「寝る前に少し読書したい」など、些細なことから始めます。 * 書き出すことで、自分の本当の欲求が可視化され、自分自身への理解が深まります。 * リストの中から、すぐにでも、簡単にできることを選んで実行してみましょう。
4. 小さな「こうしたい」を一つだけ叶えてみる
リストアップしたことや、その瞬間に気づいた「こうしたい」の中から、最も手軽なものを一つだけ選んで実行してみましょう。 * 「温かい飲み物を飲む」「窓を開けて深呼吸する」「好きな香りをかぐ」「少しだけ背伸びをする」など、ほんの数秒から数分でできることで構いません。 * 「こんな小さなこと」と思わずに、自分の「こうしたい」という気持ちを優先させてあげた自分をねぎらいましょう。「私は自分の気持ちを大切にできた」という小さな成功体験が、自己肯定感を育みます。
5. 自分の気持ちに寄り添う言葉をかける
自分の気持ちに気づいても、周りの状況や「〜ねばならない」という考えから、すぐにその気持ちを叶えられないこともあるでしょう。そんな時は、自分に優しく語りかけてみましょう。 * 「本当は今、すごく休みたいんだね。そう感じているんだね」「今は難しいけれど、そう思っている自分に気づけて良かったね」「大丈夫、いつか叶えられる時が来るかもしれない」 * 自分の気持ちを否定せず、ただ受け止め、理解しようとする姿勢が大切です。
これらの方法は、どれも特別な準備や時間が必要なものではありません。日常生活のちょっとした瞬間に取り入れることができます。完璧にできなくても大丈夫です。「あ、自分の気持ちを抑え込んでいるな」と気づくことそのものが、大きな一歩なのです。
自分を満たすことが、周りへの優しさにも繋がる
自分の「こうしたい」という気持ちを大切にすることは、決してわがままなことではありません。自分が心から満たされていると、心に余裕が生まれ、自然と周囲の人にも優しく接することができるようになります。コップが満たされて初めて、溢れた分を周りにお裾分けできるように、まずは自分自身を満たすことが重要なのです。
セルフコンパッションのレンズを通して、自分の気持ちに優しく寄り添う練習は、すぐに完璧にできるものではないかもしれません。でも、毎日少しずつ、意識的に自分の内側の声に耳を澄ませてみてください。
「本当はこうしたい」という小さな声に気づき、それを大切にしようとするその姿勢が、あなたの心と体をじんわりと温め、自己肯定感を育んでいくはずです。自分自身に優しさを向ける旅を、今ここから始めてみませんか。