「当たり前の習慣」に寄り添うセルフコンパッション。自分を大切にする毎日の心の練習
忙しい毎日、自分を後回しにしていませんか
仕事や人間関係のストレス、日々のタスクに追われる中で、「自分のこと」はつい後回しになってしまう。そんな風に感じていらっしゃる方も少なくないかもしれません。朝起きてから夜眠りにつくまで、無意識のうちにこなしている「当たり前の習慣」の中に、実は心を満たすヒントが隠されています。
自分に厳しく、「もっと頑張らなければ」「まだまだ足りない」と感じてしまう時、心は知らず知らずのうちに疲れていきます。そんな時に必要なのは、自分を責めることではなく、ありのままの自分に優しく寄り添う視点です。この記事では、特別な時間や場所を用意しなくても、日々の当たり前の習慣の中でセルフコンパッションを取り入れ、心穏やかに過ごすための方法をご紹介します。
セルフコンパッションとは? 日常習慣での捉え方
セルフコンパッションとは、困難や失敗に直面した時に、あたかも親しい友人に接するように、自分自身にも優しさと思いやりの心を持って接することです。これは単なる甘やかしではなく、「ありのままの自分を受け入れる力」を育むための実践です。
セルフコンパッションには、主に3つの要素があると言われています。
- マインドフルネス(気づき): 自分の思考や感情、体の感覚に、良い悪いといった判断を加えずに気づくこと。
- 共通の人間性: 困難や苦しみは自分だけでなく、多くの人が経験する普遍的なものであると理解すること。
- 自分への優しさ: 自分を批判するのではなく、困難の中で自分自身を労り、慰めること。
これらの要素を、どうして「当たり前の習慣」に取り入れるのでしょうか。忙しい毎日では、一つ一つの習慣を無意識のうちにこなしてしまいがちです。しかし、その「無意識」の中に、自分への批判や焦りが潜んでいることがあります。例えば、歯磨きをしながら「今日の会議、うまくいかなかったな」と自分を責めたり、通勤中に「全然時間が足りない」とイライラしたり。
当たり前の習慣にセルフコンパッションを取り入れることは、その無意識の自動操縦を一時停止し、今の自分に「気づき」、自分自身に「優しく寄り添う」時間を作る練習になります。
心と体の繋がり:習慣が心身に与える影響
私たちの心と体は密接に繋がっています。ストレスや心の疲れは、体のこわばりや不調となって現れることがありますし、逆に体の状態は心にも影響を与えます。忙しさの中で自分を後回しにしていると、知らず知らずのうちに心身に負担がかかり、無意識の習慣にもそれが現れます。
例えば、食事を慌ただしくかきこむ、睡眠時間を削る、休憩を取らずに働き続けるといった習慣は、体の声を聞かずに心身を酷使している状態と言えます。これらの習慣を、自分自身を労わる時間に変えることで、心と体の両方に良い影響を与えることができるのです。
当たり前の習慣にセルフコンパッションを取り入れることは、自分自身の心と体の状態に丁寧に気づき、その声に耳を傾ける練習でもあります。「疲れているな」「少し心がざわついているな」といった気づきは、自分を大切にする第一歩となります。
「当たり前の習慣」に取り入れるセルフコンパッションの実践
それでは、具体的に日々の当たり前の習慣の中で、どのようにセルフコンパッションを取り入れることができるのでしょうか。いくつかの例をご紹介します。大切なのは、完璧にこなそうとすることではなく、「ほんの少し意識を向ける」ことから始めることです。
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朝、目が覚めた時
- 布団の中で、今日の自分の心と体の状態にそっと気づいてみましょう。「あたたかい布団に包まれているな」「体が少し重いな」「なんだか少し不安を感じているな」など、良い悪いという評価をせず、ただありのままの状態を感じ取ります。
- 心の中で「今日も一日、自分に優しく過ごそう」と、自分自身に語りかけてみましょう。
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歯磨きをしている時
- 歯ブラシを持つ手の感触、歯ブラシの動き、歯磨き粉の味や香り、口をゆすぐ水の温度など、五感に意識を集中させてみます。
- 「今、自分は歯を磨いている」という行動そのものに気づき、そこに評価を加えない練習をします。
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通勤中(電車の中や歩いている時)
- 体の感覚に意識を向けます。足が地面を踏む感触、座っているお尻の感覚、風が肌に触れる感覚など。
- 呼吸に注意を向けてみます。吸う息、吐く息。数回、ゆっくりと深い呼吸をしてみましょう。
- もしネガティブな思考や感情が浮かんできても、「あ、自分はいま〇〇について考えているな」と、ただ気づいて流すようにします。
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食事をする時
- 食べる前に、目の前にある食事の色、形、香りに気づいてみます。
- 一口ごとに、食べ物の味、舌触り、噛む音に意識を集中させてみます。早食いをせず、ゆっくりと味わうことを意識します。
- 食事を与えてくれる体と、その食事を用意してくれた人やプロセスに感謝の気持ちを向けてみるのも良いでしょう。
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お風呂に入っている時
- お湯の温かさ、肌に触れる感触、立ち上る湯気、浴室の音などに意識を向けます。
- 今日の体の疲れやこわばりに気づき、「今日も一日頑張ってくれてありがとう」と、自分の体に優しく語りかけてみます。
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寝る前に布団に入った時
- 今日一日を振り返り、できたこと、頑張ったこと、難しかったことなどを、良い悪いの判断をせずに思い浮かべてみます。
- 難しかったことや後悔していることがあっても、「あの時は大変だったね」「頑張ったね」と、自分自身に労いの言葉をかけてみましょう。完璧でなくても大丈夫だと自分に伝えます。
これらの実践は、どれもほんの数秒から数分でできることです。大切なのは、これを「やらなければならないこと」にするのではなく、自分自身への贈り物として捉えることです。
小さな一歩から、自分を労わる習慣を育む
ご紹介した実践は、最初は難しく感じるかもしれません。習慣に意識を向けることを忘れてしまったり、気づいたらまた自分を責めていたり、ということもあるでしょう。それで構いません。セルフコンパッションは「完璧にできること」を目指すのではなく、「今、自分に優しくありたい」という意図を持つこと自体が大切です。
もし忘れてしまっても、気づいた時にまた意識を戻せば良いのです。その「気づき」こそが、マインドフルネスの実践であり、セルフコンパッションの始まりです。自分を責める癖が出たら、「あ、また自分を責めているな。多くの人もこういう時に自分を責めてしまうことがある。でも、今は自分に優しく寄り添ってみよう」と、共通の人間性と自分への優しさを思い出してみてください。
毎日の中に、自分を労わるほんの少しの時間を作ることで、心は穏やかになり、体もリラックスしやすくなります。当たり前の習慣にセルフコンパッションを寄り添わせる練習を続けるうちに、きっと日常の中に隠れた「自分を大切にする時間」が増えていくことを実感できるでしょう。
日常習慣を通じて、心満たされる毎日へ
特別なセルフケアの時間を持つことももちろん大切ですが、忙しい毎日の中では、それが難しい時もあります。そんな時こそ、当たり前の習慣を、自分自身に意識を向け、労わるための小さな機会に変えてみましょう。
歯磨きをする時、電車に乗っている時、食事をする時。そのほんの短い時間に、今の自分の心と体に優しく気づき、労りの言葉をかけてみる。そうすることで、セルフコンパッションは少しずつ日常に溶け込み、自分を大切にする心の練習となっていきます。
日々の習慣を通じて自分自身に優しく寄り添うことで、心は穏やかになり、自己肯定感も育まれていくでしょう。当たり前の日常の中に、心満たされる時間を見つけ、自分らしいペースで心地よい毎日を育んでいかれることを願っています。